サッカー本

坪井健太郎さん著/サッカーの新しい教科書シリーズ3冊【守備・攻撃】の感想

サッカーの新しい教科書3冊

ずっと前から気になっていた、スペインユース年代の現役指導者として活躍されている坪井健太郎さんによる、こちらのサッカー戦術の教科書シリーズ3冊を読破しました。

サッカーの教科書」というコンセプトの通り、まさにサッカー戦術のベース理論を体系立てて整理した本になっていて、基礎から体系立てて、論理的にサッカーを学ぶことができます。

このシリーズは1度読んで「あ~面白かった」で終わるのではなく、手元に置いておいて何度も読み返したり、試合観戦しながら疑問が浮かんだらこの本で確認するという使い方もできる書籍です。

著者の坪井健太郎さんはスペインのユース年代で指導者として活躍されている方で、バルセロナやエスパニョールといった強豪との対戦など、現場レベルで学んできたことや体験したときのことなどが織り込まれているのもこの本の魅力かと思います。

目次

 

シリーズ1冊目「サッカーの新しい教科書」

2014年5月に出版されたサッカーの教科書シリーズの第一弾が「サッカーの新しい教科書 戦術とは問題を解決する行為である」です。

この本のメインテーマは「サッカーにおける戦術とは何か?」。

普段、私達はサッカーファンは戦術を専門的に学んでいないので、解説や雑誌メディアで語られていることを「なんとなく」解釈して、「なんとなく」自分目線で観戦していることが多いと思います。

しかしこの本ではプロの世界でサッカー戦術がどのように定義されて、体系化されているのかを学ぶことが出来ます。

プロの世界で…というと複雑難解な印象を持ちますが、実はこの本は高度なサッカー戦術を学ぶというより、「サッカー戦術のそもそも論」を基礎から学べるという方が実態に近いです。

そもそも戦術って何なの?そもそも戦術ってどういう要素で構成されていて、どんな使い方がされているの?

という視点を取り上げている本なので、最先端で高度な戦術については、この1冊目の内容を土台にして、2冊目の守備の教科書、3冊目の攻撃の教科書で具体的に掘り下げて行く…とイメージです。

著者の坪井健太郎さんがスペインで現役コーチをされている方なので、スペインでの戦術的解釈、日本との対比、指導者としての経験や考察に関する記述が多くあるというのが、この本の良いスパイスになっているかなと思います。

この本の目次

  • Chapter1:真の戦術とは何か?
  • Chapter2:サッカーを戦術的視点で見る方法
  • Chapter3:サッカーの戦術コンセプト
  • Chapter4:戦術のトレーニングメソッド

Capter1ではサッカー戦術とは何か?という定義付けから始まり、戦術がどのような要素で構成されているのかが述べられています。いわゆる、基礎の基礎の部分ですね。

Chapter2では日本代表、バルセロナ、バイエルンなど特定チームの戦術分析を具体例として掲載し、「特定チーム全体を戦術的な視点でサッカーを見た場合の考察を取り上げています。ただし、出版時期が2014年のブラジルW杯前なので、取り上げるチームや監督の事情は既に大きく変わってしまっている部分ではあります。

Chapter3ではサッカー戦術のコンセプトとして、攻撃、守備での戦術の構成要素に触れつつ、スペインのサッカー言語をもとに具体的なプレーを解説。2冊めの守備の教科書、3冊目の攻撃の教科書の入門編といったイメージです。

Chapter4では指導者として、戦術をチームに落とし込むためのトレーニングメソッドについて触れています。

 

教科書をタイトルに入れた意味がよく分かる!理論的で体系的にまとまった学習要素が強い本

サッカーの新しい教科書の目次部分の写真

この本ではサッカー戦術の基礎や土台を重点的に取り上げつつ、全体を俯瞰で見ながら戦術を紹介するという「入門編」的な内容になっています。

シリーズ2冊目の守備の教科書、3冊目の攻撃の教科書に比べ、1冊目は広く浅くカバーしている印象で、あまり一つの事柄を深く掘り下げてはいません。

その入門編的な内容が、ある程度サッカー観戦歴がある人であれば「内容が簡単すぎる」と感じるかもしれませんし、あまり論理的な学術要素の高い文章を読まない人からすると「難しい」と感じるかもしれません。

しかし「サッカーの新しい教科書」の内容はその後に続く2冊目、3冊目に続く土台になっているなので、できれば1冊目から基礎をガッチリ固めてから攻撃や守備の具体的な理論を学ぶ方が、その後の理解は確実に広がるだろうと思います。

内容が非常に論理的なので、言葉の定義付け、全体の論理構成、要素構成などが明確ですし、一見当たり前に感じる部分もきちんと整理されていて、まさに「教科書」というコンセプトがぴったりの内容だと思います。

私は最初にこの本を読んだとき、大学1年生のときに社会学や政治学を基礎から学んだ時のような感覚になりましたから、サッカーを論理的かつ体系的に、学術的に学んでみたいという方は非常に相性が良い本ではないかなと思います!

 

シリーズ2冊目「サッカー 新しい守備の教科書」

サッカー 新しい守備の教科書

2016年7月に出版された、守備にフォーカスを当てたシリーズ2冊目の本です。

個人的にシリーズ3冊のうち最も内容が面白かった本で、教科書代わりに手元においておき、一度ではなく何度も目を通して内容を頭に叩き込みたいと思うほど個人的に「ハマった1冊」でした。

あくまで主観ですが、サッカー観戦のレベルを上げるには「守備戦術の理解」が必要不可欠だと思いますし、守備についての読み取りができればサッカー観戦はより充実すると私は感じているので、欧州サッカーや日本代表、Jリーグなどの試合観戦レベルを上げたい人に非常にオススメしたい1冊です。

1冊目に続き「守備の教科書」というタイトルが本当にぴったりでして、色んな守備のやり方とか、守備のセオリー、各ポジションの役割などを体系的に学べる内容なので、守備について「なんとなく」じゃなく、プロレベルの守備理論を体系的立てて学ぶにはこれ以上無い1冊かと思います。

この本を読んだ内容を頭に入れて試合を観戦すると、プレッシングのかけ方だけでも色んな視点で見れるようになりますし、今まで見過ごしてきた守備について色んなことが読み取れるようになるので、サッカーの試合を見るのが待ち遠しくなると思います。

この本の副次効果としては、スタジアムで観戦するときはピッチに近い席ではなく、ピッチ全体を俯瞰して眺められる席をより一層好むようになることでしょうか(笑)

 

新しい守備の教科書の目次・内容について

この本の目次

  • Chapter1:サッカーにおける守備戦術
  • Chapter2:守備のテオリア(理論)
  • Chapter3:守備のプレーモデルを知る
  • Chapter4:守備のトレーニングメソッド
  • Chapter5:守備の進化から予測するサッカー戦術の未来

Chapter1では守備がなぜ大切なのか?がメインテーマです。

自身のスペインでの指導経験、2016年までの欧州サッカーのトレンドから守備の重要性について語っているのですが、結論としては「日本は育成年代での守備の練習時間が足りておらず、それが世界との大きな差につながってしまっている」というのが著者の主張でした。

Chapter2では守備理論を体系的にまとめる部分で、個人的にこの章がこの本の一番の見所かなと思います。

守備戦術のやり方を体系化してパターンに落とし込み、それぞれのやり方における各ポジションの役割の整理など、いわゆる「守備の理論」を俯瞰で学ぶ内容です。

ボールを失った直後の守備のやり方、前線からのプレッシングのやり方、開始位置の違い、後退(リトリート)、シュートストップ以外のGKの役割や、GKの特徴に合わせた守備戦術の選択など。

試合の中でよく見る守備について理論が体系立てて解説されているので、この部分だけでもこの本のもとが取れるんじゃないかと思うほど、内容が充実していました。

Chapter3では前章で取り上げた理論を、有力チームが具体的にどのように実践しているのかを個別の具体例として取り上げます。

重点的に取り上げているのがシメオネ監督のアトレチコ・マドリーで、15-16シーズンのUCL準々決勝のバルセロナ戦の守備を重点的に解説しています。

その他にも、バルセロナ、バイエルン、レスター・シティなど特定チームの守備戦術について取り上げていますが、この本が2016年7月の出版なので、その直前のチームについての考察になります。

Chapter4は指導者としてのトレーニングメソッド、Chapter5で今後の守備戦術の進化と日本の育成年代における守備の課題などに触れるというのがこの本の内容です。

 

シリーズ3冊目「サッカー 新しい攻撃の教科書」

サッカー 新しい攻撃の教科書

サッカー新しい攻撃の教科書」は2018年6月に出版されたシリーズ3冊目です。

created by Rinker
¥1,230 (2024/04/25 02:00:53時点 Amazon調べ-詳細)

「教科書」という基本コンセプトはこれまでと同じで、本の構成は前作からそっくりそのまま攻撃に変わった内容になっていますが、シリーズ3冊の中では一番内容が難しく、専門的であったように思います。

GKやディフェンスラインからのビルドアップの理論だったり、曖昧で独断的に解釈しがちな部分をこの本で理論立てて学べますから、この本を読み終えた頃には、どのチームがどういう攻撃をしようとしているのか?どういう狙いを持って攻撃をしようとしているのか?を読み取るための視点を得ることができます。

こういう本を読むと、その知識を早く使いたい!というワクワクした気持ちになるので、以前にも増して中継、スタジアムでのサッカー観戦するのが楽しくなるのが良いですね。

この本の目次

  • Chapter1:サッカーにおける攻撃とは
  • Chapter2:攻撃のテオリア(理論)
  • Chapter3:攻撃のプレー分析
  • Chapter4:攻撃のトレーニングメソッド

Chapter1でサッカーにおける攻撃の全体像を論理化して整理します。

サッカーの攻撃ってこういう風に成り立っているんですよ、というのを基礎から体系立てて、全体を把握できるようになっています。

Chapter2では具体的な攻撃理論を細分化して、かなり具体的な要素まで落とし込んで解説していく部分で、前作と同じくChapter2がこの本の最も大きな見どころかなと思います

個人戦術、集団戦術の2大分類があり、個人戦術ではどのような要素があるか(例えばマークを外す動きであるデスマルケなど)を解説し、その要素における重要ポイントなどを、抽象から具体までかなり幅広く細かく取り上げています。

この本で取り上げられている攻撃の理論構成の一部分を取り上げてみます。

①個人戦術

攻撃
⇒ 幅
⇒ 深さ
⇒ マークを外す動き(デスマルケ)

■守備
⇒ マーク
⇒ カバーリング
⇒ ペルムータ

②集団戦術

この本は攻撃がテーマなので主に攻撃面を中心に取り上げていますが、「幅」や「深さ」、「マークを外す動き」についてもかなり細かくパターン化して解説しています。

強いてこの本のマイナスポイントを挙げるとすると、Chapter2が長すぎて読み手に負担がかかりすぎている点でしょうか。

Chapter2に関しては160ページという大ボリュームなのでどこまで読めば一段落するかが見えにくく、「今なにの話をしているんだっけ?」と現在地を見失ってしまうことが何度かありました。

また攻撃の理論は内容が結構難しいですし、映像でなら1発で理解できることも、文章では書き手と読み手がイメージを共有しにくいという本のデメリットも重なり、読み手の理解が追いつかないまま話が展開されてしまうことが多々ありました。

そういう意味では、Chapter2に関しては読み手の負担を軽くするための編集であったり、目次構成の区切り方であったりの工夫がもう少しあってもよかったのかなと個人的に思います。

Chapter3では著者が普段どのように試合を分析視点で見ているのか?と、具体的なチームでの攻撃分析を取り上げています。ここで取り上げられているのは

  • マンチェスターシティ(グアルディオラ)
  • チェルシー(コンテ)
  • ナポリ(サッリ)
  • バルセロナ(バルベルデ)
  • 川崎フロンターレ(鬼木達)
  • 日本代表(ハリルホジッチ)

です。既に監督を退任しているチームもありますが、具体的な攻撃理論の実践例として解説しています。

Chapter4ではトレーニングメソッドが紹介されていますが、全体からするとボリュームは非常に少ないので、指導者向けというコンセプトはそれほど強く打ち出していない印象です。

サッカー新しい攻撃の教科書」は内容がかなり専門的ですので無理に1度で全て理解しようとせず、論理構成を意識しながら時間を賭けて読み進めつつ、ときには何度か戻りながら丁寧に、そして集中して読み進めることをオススメします。

また1度でこの本の全内容を理解することは不可能でしょうから、何度も読み返して、反復して読むのがこの本の良さをもっと引き出すコツかもしれませんね。

created by Rinker
¥1,230 (2024/04/25 02:00:53時点 Amazon調べ-詳細)

 

まとめ

サッカーの教科書ってありそうでなかったコンセプトだよな、と思います。

個人的に小難しい最先端戦術よりも、サッカー戦術のベース理論を基礎から体系立てて理解してみたいとずっと考えていました。

サッカー観戦って最初は数を浴びることが重要だと思うのですが、ある程度のところまで行くと観戦の仕方にもマンネリ化が起きてくるので、こういう本で基本を学ぶことで、また試合観戦の視点は増えたり、観戦レベルを一つ上げるのもサッカー観戦を長く楽しむコツかなと思います。

created by Rinker
¥1,230 (2024/04/25 02:00:53時点 Amazon調べ-詳細)

余談ですが、将来的には会員制の動画配信サービスなどで、映像を使って解説していくサッカー戦術を学ぶオンラインサロンなどが増えていけば面白いよなぁと思うものの、映像の使用権など大人の事情が絡んでくるのが難しい部分なのかなと思います。

Youtubeで解説動画を上げている方だったり、ブログで戦術分析をしている方など色んな方がいますが、何を行っても結局は映像を使うのが一番なんで、将来的にはいろんな手法や媒体でサッカー戦術を語れるようになればいいなと思います。

ちなみにこの本の著者である坪井健太郎さんは現役の指導者以外にも、記事の執筆、SNSでの情報発信ですとか、最近ではスカパーの「スカサカライブ!」で岩政大樹さんと対談したりと、多方面に渡って活躍されています。

現役コーチとして参考にしたいとう方は当然ですが、戦術面での情報に関心が強い方はフォローしてみてください!


 

-サッカー本

© 2024 サッカーTV